妊娠糖尿病にはロカボ食 2024年改訂

ロカボ食」は山田悟医師が提唱しているゆるやかな糖質制限食です。「ロカボ」はローカーボ(低糖質)の造語です。糖尿病治療を目的として、血糖を上昇させる糖質の摂取を1日あたり、糖質量70〜130gに抑える食事療法です。

一方、「いそいちロカボ食」は山田医師のロカボ食を軽度の妊娠糖尿病むけに当院独自にアレンジしたもので、糖質摂取を1日あたり、130〜150g程度にゆるく抑えるものです。

糖質量をさらに落として、1日あたり、100〜130g程度に抑える場合、当院ではこれを「山田ロカボ食」と称しています。根拠はありませんが、妊婦では1日糖質量を100g以下に下げないようにします。
当院での妊娠糖尿病治療食は以下の2種類です。

当院の妊娠糖尿病の治療食

1. いそいちロカボ食 1日糖質量130〜150g
2. 山田ロカボ食   1日糖質量100〜130g

妊娠糖尿病の食事療法の主流は「低カロリー食」です。「低カロリー食」にすると、確かにカロリーはお腹が減るほどの1600〜1800kcalと低く、いかにも糖尿病に有効だろうと思うわけですが、そのうち6割を何故か糖質が占めるように献立されますので、単純に4kcal/gで計算すると、糖質は1日あたり240g〜270gと高くなり、糖尿病の治療食としては意外に高糖質ということになってしまいます。

この「従来の低カロリー食は実は意外に高糖質」という事実が非常に重要です。

妊娠糖尿病においては、食後2時間の血糖コントロール目標は120mg/dl以下という極めて厳しい設定となっています。従来の低カロリー食で管理すると、実際は意外に高糖質ですので、食後2時間血糖の目標値をクリアできない場合が少なくない。

平成28年までは当院でも妊娠糖尿病の治療食は「低カロリー食」でした。「低カロリー食」は、おなかが減る割に血糖コントロールがうまくいかず、1日1800カロリーでだめだと、1600カロリーにまで落とし、さらに6分割食にしたりして、それでもうまくコントロールできずに治療が行き詰まるという印象でした。そうなると高次施設に紹介するのですが、そこでも糖質60%の「高糖質の低カロリー食」ですので、コントロールできないとインスリン治療を受けることになってしまうようです。

平成29年から、当院は妊娠糖尿病治療食として、「ロカボ食」を採用しています。「ロカボ食」は糖質制限食ですが、ゆるやかに糖質を制限する方法です。しかも当院では、1日糖質量下限を100gとしており、ゆるゆるの糖質制限食です。

「糖質制限食」もいろいろありまして、その中には、糖質摂取を究極的な1日10〜50g以内に抑えこみ、その結果として産生される「ケトン体」を主なエネルギー源として生活する「ケトン食」という極度の糖質制限食もあるようです。小児てんかんや末期がんの治療食として応用されています。

当院の「ロカボ食」は「ケトン食」ではありません。つまり過度の糖質制限ではありません。妊娠中でも安心して行ってもらえるゆるやかな(ゆるゆるの)糖質制限食です。糖質が全くダメということではなく、毎食、適度にご飯を食べる方法です。過剰に糖質を摂らないようにするだけです。

「ロカボ食」で妊娠糖尿病を管理するようになってから数年以上経過し、75名以上の妊娠糖尿病治療を行いましたが、ほとんどの方で良好な血糖コントロールがえられています。

ゆるゆるの糖質制限食である「いそいちロカボ食」は特に複雑なものではありません。主食のご飯を毎食重さ80gにへらし、その他の副食メニューは普通食とほとんど変わらず、味付けの砂糖をラカントS(エリスリトール)に変えるだけです。間食のおやつは低糖質(糖質10〜15g)の物にします。

ラカントS(エリスリトール)は糖質(糖アルコール)ですが、血糖はあげないようです。カロリーもゼロです。安全な甘味料として認可されています。

いそいちロカボ食」で食後血糖のコントロールが不十分な場合は、ご飯を毎食重さ70gにへらし、おやつは糖質10g以内の物にして、デザートの果物を省きます。これは山田悟医師の推奨する糖尿病治療食とほぼ同じですので、当院ではこれを「山田ロカボ食」と称しています。しかしながら、糖質量は山田医師の推奨するところの70〜130g/日ではなく、100〜130g/日くらいにゆるめに調整するようにしています。つまり1日あたり糖質を10〜30g落とす程度にとどめます。「山田ロカボ食」でもコントロール不良の場合は高次施設へ紹介します。

ゆるやかな糖質制限食である「ロカボ食」によって、軽度の妊娠糖尿病の大半は治療できると思われます。理屈は簡単です。血糖を上げるものが糖質のみであり、糖質摂取を減らせばよいだけの話なのです。しかもゆるやかに糖質をへらすだけでもOKなのです。

現在は、ロカボ食に加えて、植物油脂をへらす調理方法(減油食)を模索・検討しています。

「いそいちロカボ+減油食」の試み 

ゆるゆるの糖質制限食に植物油脂制限を加えた減塩食ならぬ「ロカボ+減油食」をこころみました。植物性油脂の使用量を減らす調理法を栄養士に模索してもらいました。
当院の栄養士の努力により、ゆるやかな糖質制限食にプラスして、植物油脂の使用量を減らした減油食を試みましたので、そのPFCバランスを計算してみました。

2022年10月16日 いそいちロカボ食+減油食

「朝食」

ごはん80g 塩鮭 煮物 味噌汁

「昼食」

ペペロンチーノ サラダ レバー煮 スープ

「おやつ」

 

バウムクーヘン

「夕食」

豚肉ピリ辛炒め 吹き寄せ煮 大豆おろし和え

この日は
糖質150g 脂質 69.2g
1612kcal
PFCバランス
タンパク質 17% 脂質 38.6%
糖質 44.4% でした。
糖質を適度に減らし、脂質を40%未満に抑制できました。

2022年10月23日の「いそいちロカボ食+減油食」

「朝食」

豆腐 野菜炒め 味噌汁 ごはん80g

「昼食」

えびチャーハン 麻婆白菜 サラダ スープ

「おやつ」しょうゆせんべい

しょうゆせんべい

「夕食」

ごはん80g 牛肉と椎茸の炒め物
茶碗蒸し ほうれんそう山芋サラダ
すまし ミカン50g
(画像がありません。)

この日の 糖質量 146.7g 脂質 60.8g
1538kcal
PFCバランス
タンパク質 20,9%
脂質  35.6%
糖質  43.5%
このように植物性油脂の使用量を減らすと、理想的な 妊娠糖尿病治療食ができるようです。

いそいちロカボ食+減油食 2022/12/25 クリスマスの日

「朝食」

あじ干物 きんぴらごぼう 味噌汁 ごはん80g

「昼食」

鯖味噌煮 鶏チャプチェ 白菜ゆず昆布 ごはん80g

「夕食」

チキンソテー サラダ カリフラワーのピクルス
クラムチャウダー クリスマスケーキ ごはん80g

この日の 糖質量 152g  脂質 69.6g 1605kcal PFCバランスは タンパク質 16.6% 脂質 39% 糖質 44,4% クリスマス用の食事でやや調整が難しかったようです。

2022年9月23日に出した 「普通食」と「いそいちロカボ+減油食」を比較してみました。

当院の「普通食」と「いそいちロカボ+減油食」の比較 (2022/9/23 の食事)

このように「普通食」にくらべて糖質・脂質がおおきく減り、タンパク質の目減りはすくなく、PFCバランスは、ほぼ 2:4:4 で、「脂質の割合が40%を超えない」食事であることがわかりました。
今後、当院では「いそいちロカボ+減油食」を妊娠糖尿病治療食のファーストチョイスとしたいと思います。