妊娠糖尿病にはロカボ食

「妊娠糖尿病」の詳細については、他の医療ウェブサイトをご覧ください。ここでは、当院で2年前から行っている妊娠糖尿病の食事療法;「ロカボ食」についてお話したいと思います。 ここで述べる「ロカボ食」はダイエット食ではありません。

「ロカボ食」は山田悟医師が提唱しているゆるやかな糖質制限食です。「ロカボ」はローカーボ(低糖質)の造語です。糖尿病治療を目的として、血糖を上昇させる糖質摂取を1日あたり、70~130gに抑える食事療法です。

「ロカボ食」を説明する前に、まず「低カロリー食」について説明しなければなりません。現在の日本では、妊娠糖尿病の食事療法は「低カロリー食」が主流です。「低カロリー食」にすると、確かにカロリーはお腹が減るほどの1600~1800kcalと低く、いかにも糖尿病に有効だろうと思うわけですが、そのうち5~6割を何故か糖質が占めるように献立されますので、単純に4kcal/gで計算すると、糖質は1日あたり200g~250gと意外に高くなり、糖尿病の治療食としては高糖質ということになってしまいます。

この「低カロリー食は実は意外に高糖質」という事実が非常に重要です。この事実を知ってしまうと、低カロリー食で本当にいいのか疑問がわいてくるでしょう。

栄養士に話を聞いてみると、栄養士の学校では「低カロリー食」の場合、糖質が6割を占める献立を教育されるのだそうです。その理由はよくわかりません。

「低カロリー食」の献立を作る際、カロリーが高くて身体に悪そうな脂肪は減らし、糖質を増やしたほうが無難な気がして、材料費が高く腎臓に悪いそうなタンパク質を減らした方が病院食としてのコスパもよいといった感じでしょうか? こうなると血糖を上昇させる糖質が増えてしまいますので、血糖はなかなかコントロールできないということになります。「低カロリー」という言葉の魔力なのか、食事療法などの医療分野においても、いまだにこの魔法は解けていないようです。

私が「低カロリー食は意外に高糖質」という事実を知ったのはつい最近、3~4年前です。以前は、妊娠糖尿病と診断すると、何の疑いもなく栄養士に「低カロリー食」を指示していました。産婦人科診療ガイドラインに粛々と従い、何年間も「低カロリー食」で妊娠糖尿病の食事療法を行っていたわけです。

「低カロリー食」は、カロリー計算が面倒くさいですし、おなかが減る割に血糖コントロールがうまくいかず、1日1800カロリーから1600カロリーにまで落とし、さらに6分割食にしたりして、それでもうまくコントロールできずに治療が行き詰まるという印象でした。ズ~ッと何かおかしいと感じていました。

その頃、本屋で立ち読みしていたら「糖質制限のカリスマ」江部康二先生の本に出会ったのです。「糖質制限」という言葉を初めて知りました。言い訳ですが、医学書は読みますが普通の本はあまり読まないので、恥ずかしながら「糖質制限」についてはあまり知りませんでした。「脂肪は血糖をあげない。血糖を上げるのは糖質のみ。」この事実は衝撃でした。なので、糖質を減らすだけで妊娠糖尿病は管理できるのではないかと思いました。

おそるおそる2年前から「糖質制限食」で妊娠糖尿病を治療開始しました。その結果は良好なものでした。治療の手応えは確実なものでした。しかし、ガイドラインとは違う方法ですので、途中で他の産婦人科に紹介する際には、紹介先の先生にどう思われるのか心配でした。

またちょうどその頃に、「炭水化物抜きダイエット」の本を出版しておられ「炭水化物ダイエットの第一人者」と言われていた有名人が急死され、「糖質制限は危険」などとマスコミが騒ぎ始めていました。「炭水化物抜きダイエット」においては、肉食や焼酎などのアルコールがある程度容認されていますが、肉の脂肪の多食・アルコールの過飲は血管の油汚れ・動脈硬化の原因となるようです。妊娠中はお肉の赤身はOKですが、揚げ物の衣・油には注意が必要です。アルコールは厳禁です。

「糖質制限食」が危ぶまれる理由は、糖質を減らすかわりに脂質を増やすところでしょうか? 脂質は身体に必要な栄養素ですが、何でも油で揚げて食べるという食習慣は血管の油汚れ・動脈硬化の原因となるようです。油脂は「両刃の剣」です。脂肪の摂り方に注意が必要です。

ともあれ、「糖質制限」に対する偏見や誤解があまりにすさまじいので、一時期はさすがに世間の目をおそれて、糖質制限をやめようかと悩んでおりましたところ、本屋で今度は山田悟医師の「ロカボ食」の本と出会いました。「ゆるやかな糖質制限」=「ロカボ」・・・・・「これこそ妊娠糖尿病に安全で有効な食事ではないか。」と思いました。

「糖質制限食」もいろいろありまして、その中には、糖質摂取を究極的な1日50g以内に抑えこみ、その結果として産生される「ケトン体」を主なエネルギー源として生活する「ケトン食」という高度の糖質制限食もあるようです。小児てんかんや末期がんの治療食として応用されています。

「ロカボ食」はこのような過度の糖質制限ではありません。妊娠中でも安心して行ってもらえるゆるやかな糖質制限食です。糖質が全くダメということではなく、毎食、適度にご飯を食べる方法です。過剰に糖質を摂らないようにするだけです。

 「ロカボ食」で妊娠糖尿病を管理するようになってから2年ほど経過し、50名以上の妊娠糖尿病治療を行いましたが、ほとんどの方で良好な血糖コントロールがえられています。当初は数日間入院をしてもらっていましたが、現在は外来での栄養士による指導のみで食事療法を実践してもらい、良好な治療成績が得られています。

1日あたりの糖質摂取を130~150gとするさらにゆるやかな糖質制限食も試みました。このゆるゆるの糖質制限食を「いそいちロカボ食」と称しています。軽度の妊娠糖尿病の場合、こんなゆるゆるの糖質制限でも治療できることが判ってまいりました。現在、妊娠糖尿病の約8割は「いそいちロカボ食」で管理・治療しています。

ゆるゆるの糖質制限食である「いそいちロカボ食」は特に複雑なものではありません。主食のご飯を毎食80gにへらし、その他の副食メニューは普通食と変わらず、味付けの砂糖をラカントS(エリスリトール)に変えるだけです。間食のおやつは低糖質(糖質10~15g)の物にします。

ラカントS(エリスリトール)は糖質(糖アルコール)ですが、血糖はあげないようです。カロリーもゼロです。安全な人工甘味料として認可されています。

「いそいちロカボ食」で食後血糖のコントロールが不十分な場合は、ご飯を毎食70gにへらし、おやつは糖質10g以内の物にして、デザートの果物を省きます。これは山田悟医師の推奨する糖尿病治療食とほぼ同じですので、当院ではこれを「山田ロカボ食」と称しています。他に、糖質量の多いイモ類は控え、春雨は糸こんにゃくに換えたり、ムニエル・フライなどの衣はうすくしたり、トマトケチャップをトマトピューレに換えたりしています。「山田ロカボ食」でコントロール不良の場合は高次施設へ紹介しますが、そうした妊婦はほとんどいませんでした。

ゆるやかな糖質制限食である「ロカボ食」によって、妊娠糖尿病の大半が治療できると思われます。理屈は簡単です。血糖を上げるものが糖質のみであり、糖質摂取を減らせばいいだけの話なのです。しかもゆるやかに糖質をへらすだけでもOKなのです。

しかしながら、いまだに(令和1年9月現在)「糖質制限食」は 妊娠糖尿病の食事療法として正式に認められておりません。そしていまだに「低カロリー食」が妊娠糖尿病治療の定番になっています。

当院では今後も妊娠糖尿病治療は「ロカボ食」で行います。何卒、ご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。決して、危険な食事ではありません。

いつの日か、「ロカボ食」が正式に妊娠糖尿病の治療食として認められることを願っております。
                    (2019年 9月7日)

以下は、当院の栄養士が妊娠糖尿病の妊婦さんに行っている栄養指導の実際です。参考にしてください。

〇 ご飯は必ず、量りで計量する。
  「いそいちロカボ食」では ご飯80g。「山田ロカボ食」では ご飯70g

〇 朝食は抜かない。妊娠中、空腹時間が長すぎると血糖値が下がりすぎて昼食後の血糖値が急上昇してしまう。

〇 食べる順番  野菜➡お肉・魚➡ごはん (まず野菜などの食物繊維を摂り、糖の吸収を緩やかにする。次に満腹感を高めるタンパク質の多いものを食べる。)

〇 糖質オフだと、つまり穀物を減らしすぎると、便秘になりがち。適当量の糖質はOK。そして、いろいろな食物繊維を今まで以上に摂るようにする。

〇 小腹(こばら)がすいたら、昆布・ナッツ類・小魚。間食は1日、重さ50gが目安。

〇 パンを食べるときはブランパンがおすすめ。※ブランとは小麦の外皮。

〇 イモ類、南瓜(カボチャ)は高糖質。食べる時は気を付ける。
  例えば、ポテトサラダを食べるなら、じゃが芋の分だけご飯をへらす。
  じゃが芋より野菜の量をふやす。じゃが芋をおからに換える。

〇 おかずの味付けが高糖質にならないように
  トマトケチャップ・みりん・砂糖・濃厚ソース・焼き肉のたれ ・・など注意。

〇 酢は糖質の吸収を緩やかにする調味料です。米酢・黒酢より穀物酢・リンゴ酢・ワインビネガーの方が糖質少ない。

〇 パスタ・ラーメンが食べたくなったら、蒟蒻(こんにゃく)麺。

〇 揚げ物は衣やつなぎに注意が必要。
きなこ・おから・高野豆腐は〇   パン粉・小麦は × 

〇 春雨はヘルシーなイメージがあるが実は高糖質。

〇 ラカントS (エリスリトール) は血糖の上昇無し。砂糖の代わりに使える。

〇 身体を動かすなら、血糖が高くなる食後1時間後がよい。

〇 夕食では1日に消費したタンパク質・ビタミン・ミネラルの補給が重要。
  夕食では炭水化物をなるべく控える。

〇 果物は朝食の時に食べるとよい。ミネラル・ビタミンが有効活用される。
  野菜ジュースやスムージーは咀嚼しないので、摂りすぎてしまい血糖が急上昇するので飲まない方が無難。

〇 焼き肉のタレは高糖質。塩かレモンに換える。

〇 外食の食べ物
焼き鳥・煮魚・煮物・照り焼きには砂糖とみりんが多いので要注意。
   定食ものでは、ご飯を控え、納豆・冷奴・お浸し・サラダをプラスする。

〇 コンビニエンスストアでの食材
   ゆで卵・サラダチキン・冷奴・魚の水煮缶・糖質の少ないおでんの具などがよい。

〇 糖類(とうるい)ゼロと書かれているものは要注意。甘味料などの糖質が含まれる。
  糖質(とうしつ)ゼロは糖質を含まないのでOK。

〇 ひと口食べたら30回かむ。30分以上かけて食事する。

〇 油は良質のもの新鮮なものを使う。古い油は使わない。
人工油(ショートニング・マーガリンなど)は減らす。

〇 発酵食品や食物繊維で腸内環境を整える。

妊娠糖尿病にはロカボ食

娠糖尿病の方は数日間入院してもらい、まず「いそいちロカボ食」を実食してもらいます。そのあと、血糖値の日内変動を実測します。そして自己血糖採血方法を実習してもらいます。以下にその献立の一例をお示しいたします。

朝食

食パン・6枚切り1枚 こむぎ 食パン 50g
しらす干し 5g
プロセスチーズ 15g
目玉焼き・野菜サラダ 鶏卵 60g
並塩 0.5g
こしょう
豚ロースハム 20g
調合油 3g
和風ドレッシング 8g
サニーレタス 20g
セロリ 15g
ニンジン 12g
野菜スープ はくさい 20g
ニンジン 10g
しいたけ 10g
ブイヨン 1g
食塩 1g
こしょう
150g
グレープフルーツ 40g
普通牛乳 200g
朝食糖質量 39g

昼食

ごはん こめ 精白米 うるち米 80g
豚肉の生姜焼き 調合油 5g
豚肉 もも 80g
こいくちしょうゆ 5g
合成清酒 5g
ラカント 3g
しょうが おろし 5g
たまねぎ 12g
キャベツ 30g
はつかだいこん 5g
雷豆腐 調合油 5g
ぶた ベーコン 25g
ごぼう 15g
ニンジン 12g
だいず 木綿豆腐 40g
ラカント 3g
うすくちしょうゆ 5g
さやえんどう 12g
ブロッコリーの酢味噌和え ブロッコリー 40g
まだこ  ゆで 20g
穀物酢 6g
ラカント 6g
すまし かつお・昆布だし 200g
うすくちしょうゆ 2g
わかめ 3g
切り干し大根 5g
こねぎ 2g
糖質量 41.5g

間食

クッキー 森永チョコチップクッキー・ミニ 10g
糖質量 6.8g

夕食

シメジとアサリのごはん ぶなしめじ 12g
かつお・昆布だし 90g
合成清酒 3g
うすくちしょうゆ 3g
しょうが 2g
あさり 12g
こめ 精白米 うるち米 80g
おでん だいこん 40g
鶏卵 60g
ぶた 軟骨 ゆで 60g
こんにゃく 20g
まこんぶ 3g
だいず 15g
かつお・昆布だし 80g
うすくちしょうゆ 4g
並塩 0.3g
ラカント 4g
合成清酒 5g
からし 練り 3g
エビの塩ダレ炒め ごま油 5g
ブラックタイガー 40g
じゃがいもでん粉 2g
にんにく 1g
しょうが 1g
黄ピーマン 20g
合成清酒 5g
鳥がらだし 0.3g
並塩 0.3g
こしょう  
豆苗辣油ピーナツ らっかせい 5g
  並塩 0.3g
  うすくちしょうゆ 3g
  ラカント 1.5g
  穀物酢 15g
  穀物酢 5g
  ラー油 1g
  トウミョウ 20g
糖質量 39g

この日の献立の1日糖質量は126.3gです。(2020年 11月)

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